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東京高等裁判所 昭和26年(う)5216号 判決 1952年2月15日

控訴人 被告人 佐野昭次 同 富沢浅蔵の原審弁護人 小原栄次

検察官 野本良平関与

主文

原判決を破棄する。

本件を神奈川簡易裁判所に差戻す。

理由

被告人両名の弁護人小原栄次の控訴理由は、末尾に添附する控訴趣意書と題する書面に記載するとおりである。

ところで、刑法第一八六条第二項に規定する賭場開張罪は、利益を得る目的をもつて、他人をして賭博をさせる場所を開設する行為を以て成る罪であり、その利益を得る目的とは、その賭場において賭博をする者から寺銭又は手数料等の名義で、賭場開設の対価として財産的利得をしようとする意思あることをいうのである。だから、自ら賭博の相手方となり、勝者となることによつて敗者から賭銭の交付を受けて、これを収得することを目的としたというのであつては、如何にその賭場が自己の開設にかかるものであつても、その財産的利得たるや賭場開設の対価としての利益の取得ではないので、これを以て賭場開張罪に問擬するわけにはいかない。ひるがえつて、原判決の判示事実をその挙示する証拠に照合してみるに、被告人佐野昭次は自らしんとなり、被告人富沢浅蔵はさくらとなつて賭客を誘致した上、竹竿三本及び台板等を組立て、これに煙草ピースの箱三個を配して、俗に煙草がえしと称するデンスケ賭博の一種をしたというのである。してみれば、賭場そのものの開設が被告人等の所為にかかるものであつても、財産的利得を右賭博行為そのものからしようとする意思のあつたことを容易に認められるだけであつて、右賭場開設の対価としての財産的利得をしようとする意思のあつたものと観ることはできない。従つて、原判示事実に対し、原判示刑法第一八六條第二項の規定を適用して被告人両名を処断した原判決は理由にくいちがいあるものというの外はないので、控訴理由として主張する各論旨に対する判断に待つまでもなく、原判決はおのずから破棄を免れない。

よつて刑訴法第三九七条に則つて原判決を破棄し、同法第四〇〇條本文に従つて、本件を原裁判所に差し戻すこととする。

よつて、主文のごとく判決する。

(裁判長判事 中野保雄 判事 尾後貫莊太郎 判事 渡辺好人)

弁護人の控訴趣意

第一点原判決は「被告人等は外二名と共謀し云々被告人佐野昭次は云々自らしんとなり被告人富沢浅蔵は賭客を誘致すべく賭客を装うさくらとなつて賭博場を開いた」と認定し之が証拠として原審公判廷に於ける被告人の各供述並に現行犯人逮捕手続書等を綜合して認定すると断じた。右認定事実中被告人等と外二名との共謀事実に就ては其援用証拠との間に左の不一致がある。則原審公判廷に於て被告人佐野は(記録十八丁以下)本件賭場に他に鈴木数馬、坂本の二人が居た旨、自らしんとなつた旨、他の三名(被告人富沢を含む)はさくらになつた旨の供述があるが被告人四名が共謀した事実を認定するに足りない。又被告人富沢は原審公判廷に於て(記録十八丁以下)佐野、鈴木は知合である旨、被告人から「こうゆう事をやるからもうかれば金をやるからやつてくれ」と頼まれた旨の供述、利得は半分宛の約、農具市で誘れた旨、誰がしんになるのかわからぬ、私はそのしんの家来みたいなものである旨の供述はあるが被告人等四人共謀の事実は之を認定することが出来ない。更に原審判決が援用した証拠の現行犯人逮捕手続書(記録二六丁)によれば、被告人二人が金銭賭博をなしていた事実は認めらるるが四人共謀の事実は知る由がない。原判決は「右事実は云々等の記載を綜合」して認めたと云うその等の意味が前記の証拠等の意味か他の証拠の意味か不明であるが之を広く他の証拠の意味と解して原審に現れた他の証拠中(記録十六丁裏)司法警察官作成の被告人両名に対する各第一回供述調書によれば被告人佐野(記録二九丁)が他三人のさくらと共に賭場を張つた旨その三人は鈴木数馬、富沢浅次、坂本和人である旨、被告人富沢だけはさくらとなつて手伝つてくれと頼んで来た旨、外の二人は昨日被告人(佐野)方で相談した旨の記載はあるが被告人富沢と他の二人との間に謀議乃至は共同犯行の意思共通があつた事を知ることが出来ない。被告人富沢(記録三五丁以下)は右調書によれば佐野に本件さくらになる事を頼まれて現場に来た旨、利益は平均にする約定であつた旨、自分の外にさくらが居たか否か全く知らぬ旨、此の種の賭博は全く知識なくさくらとなつたは此一回だけである旨の供述記載はあるが判決の所謂二名と共謀の事実は認め難い。

更に両名に対する検察官作成の被告人等の各第一回供述調書に於て被告人佐野(記録三九丁以下)は被告人富沢に事情を明してサクラに頼んだ事実鈴木坂本もサクラになる事を頼んで来た事実は自供しているが被告人富沢と被告人佐野以外の二名と被告人富沢との犯意共通は之を知る事が出来ない。

被告人富沢の同調書(記録四二丁)によれば「私の外に私と同様佐野が頼んで連れて来たサクラ二名も居ましたがこれは逃げて仕舞つた」旨の記載があるがこれだけでは四人共謀の犯意を証する事が出来ない。其他には此の点に関する記載はない。従て原判決の援用証拠では勿論全記録を通じて被告人富沢と他の三人との共同の犯意は証明することが出来ない。

果して然らば原判決は虚無の証拠を以て罪を断じた違法と同時に認定事実と証拠と一致しない刑事訴訟法第三七八条第四號の判決の理由にくいちがいがあるものであるから到底破棄を免れないものである。

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